アレルギー性鼻炎と喘息の関連について

アレルギー性鼻炎と喘息 ー切ってもきれない関係ー

 鼻から咽頭・気管・気管支は空気の通り道としてつながっており、アレルギー性鼻炎と気管支喘息は、昔から深い関係があることがよく知られています。それを反映して気管支喘息の患者さんの7-8割にアレルギー性鼻炎の合併があり、逆にアレルギー性鼻炎の方の2-3割に喘息の合併があると言われています。2つの疾患に関連が認められる理由としては、口呼吸になりやすいことや、アレルギー系の炎症細胞が共通であること、お互いが神経系を介して影響を及ぼし合っていることなどが考えられていますが、はっきりとした原因については未だわかっていません。

2つの疾患を合併した場合の治療で考えておくべきこと

 アレルギー性鼻炎と喘息の合併があった場合の基本方針としては、いずれか片方のみが悪化している場合にはそちらの治療を強化し、双方が悪化している場合には両方の治療を強化するということになります。ただし一般的には、増悪時には鼻炎と喘息のいずれもが悪化していることが多い印象を持っています。

本当に鼻炎だけ? 喘息だけ?

 アレルギー性鼻炎として長年治療を受けておられる方で、よくよく話をうかがうと風邪をひいた後に咳が長引いたり、「ぜーぜー」「ひゅーひゅー」を自覚しているという方もこれまでおられましたし、実際に胸で「ぜーぜー」が起こっているけれども、鼻炎の症状がかなり強いため、ご本人はあまり自覚されていないということも稀にあるようです。お互いの疾患が合併することも多いという事実を多くの方に知っていただき、そういう目でご自分の症状を是非見なおしていただけたらと思います。

スギ花粉症に対する舌下免疫療法 −シダトレン開始1年目の効果について−

 2014年10月にスギ花粉症に対する舌下免疫療法が日本でも開始されました。

 1日1回スギ花粉のエキスを舌の下にふくんでから2分後に飲み込むというこの治療法は、花粉症に対するより根本的な治療で、しかも重いアレルギー反応が少ないことから非常に期待されてきました。

 一方で、毎日少なくとも2年以上は服用が必要なことや、治験では2割前後の方に効果がないという結果が出ており、実際の薬剤販売開始後の効果が注目されています。

 そのような中で2014年10月から2015年1月の間にこの治療を受け始めた人102人を対象に厚生労働省の研究班が行った調査結果が発表されました。

 結果については下図の通りで、およそ8割前後の方には効果がみられ、1/4の方に「とても効いた」という自覚があったとのことでした。

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 一般的に舌下免疫療法は開始後2シーズン目の方がより効果が出てくることがわかっており、
2016年の花粉飛散時期にはより効果を実感される方が多いのではないかと思います。

 毎年花粉シーズンになると、症状を抑えるために種々の治療が必要で大変という方、
花粉症自体や、薬の影響で集中力が低下し困っておられる方、
 花粉症に対するより根本的な治療法として、一度舌下免疫療法を検討されてもよいかもしれません。

抗ヒスタミン薬と眠気・集中力低下

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 花粉症やアトピー性皮膚炎、じんましんなどアレルギー系の病気では、ヒスタミンというアレルギー物質が過剰に働いていて、それを抑えるために抗ヒスタミン薬という薬がよく使われます。ただ、このヒスタミンは脳の中では意識をはっきりさせて集中力を維持する働きを持っており、ヒスタミンを抑える抗ヒスタミン薬は副作用として眠気・集中力の低下などを起こすことがあります。

 薬剤の影響で集中力や判断力、作業効率などが低下する副作用についてインペアード・パフォーマンスという名称がつけられアレルギー専門家の間で注目されています。(→日本語で”鈍脳”と訳されます すごい訳ですね(^_^;))

 ある研究では、試験中にアレルギー性鼻炎の症状があった学生さん1000人前後について鼻炎の症状と抗ヒスタミン薬が成績にどう影響したか調べたところ、鼻炎症状だけだった人では40%前後の人で成績低下の傾向がみられ、抗ヒスタミン薬を服用していた人はなんと70%前後に成績低下の傾向がみられたとのことでした。(J Allergy Clin Immunol 120 (2) : 381, 2007より引用) 
 また「服用中は自動車の運転や危険な機械を操作するような作業には従事しない」という注意が書かれている抗ヒスタミン薬も多くあります。

 とはいえ、これらの副作用が特に問題になるのは古くからある”第一世代”と呼ばれる抗ヒスタミン薬が主で、抗ヒスタミン薬自体も格段に進歩し、”第二世代”と呼ばれるものでは眠気・集中力低下の副作用がぐっと抑えられています。
 アトピー性皮膚炎の症状が特にひどい時には抗ヒスタミン薬でかゆみを効果的に抑えて手で掻いてしまうことによる悪循環を断ち切るということが重要ですし、その他のアレルギー疾患でも抗ヒスタミン薬は欠くことのできない大事なお薬です。

 抗ヒスタミン薬が必要な状況をしっかり見極め、使う場合には極力インペアード・パフォーマンスが起こりにくいものを選ぶという姿勢が大切かと思います。(^^)

長引く咳の原因 ー咳喘息についてー

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 喘息というと呼吸をする時に「ひゅーひゅー」「ぜーぜー」が起こる病気として皆さんご存知の方も多いと思います。「喘鳴」と表現される上記の症状は喘息に典型的な症状ですが、喘鳴や呼吸困難が出ず、咳のみが症状として現れる「咳喘息」という病気があります。

 この病気は喘息の前段階もしくは亜型と考えられていて、無治療の場合一般的に30%前後の方が喘息に移行するといわれています。

 咳喘息は長引く慢性的な咳の原因として頻度が最も多く、呼吸器外来をしていると咳喘息に典型的な症状の患者さんが多く来られ、正しく診断をして適切な治療をすると咳が劇的に減り、患者さんに喜んでいただけることも多いため診療側としても診療しがいのある病気の一つです。

咳喘息の咳の特徴としては

  • 喀痰はそれほど多くなく空咳中心
  • 就寝時から明け方に咳が多い
  • 冷たい空気、タバコの煙、会話、運動、飲酒、精神的緊張などが誘引となって咳が出る
  • アレルギー素因のある人に多い

などがあります。

咳喘息の治療としては喘息に準じた治療(吸入ステロイドなど)を行い、治療を開始すると比較的速やかに咳が消失することが多いのもこの病気の特徴です。

 風邪を引いた後に咳が長引きがちだけどいつも我慢しているという患者さんも多く、そういった患者さんの中にも咳喘息の要素を持った方が比較的多くおられます。

 咳が出ていると周りにも気を遣いますし、咳がひどい場合には不眠になったり食欲が落ちたりと本当にやっかいですよね(^_^;)。

 症状が咳喘息にぴったりなようでも、咳喘息以外の深刻な病気でないことを十分確認する必要がありますので、咳が長引く場合には医療機関で相談されることをおすすめします。

スギ花粉症に対する舌下免疫療法について

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 このブログをごらんの方で春先になると毎年憂うつになるという方はおられませんでしょうか? 
春先といえば花粉症の季節。

 これまで花粉症にはアレルギーを抑えるタイプの対症療法的な薬が中心に使われてきましたが、からだにアレルゲンを投与して徐々にアレルゲンに慣らしていくという根本的な治療法(免疫療法・減感作療法などと呼ばれてきました)が長年研究されてきました。

 2009年からスギ花粉症の患者さんに対してスギから取り出したアレルゲンの成分を注射液として定期的に注射するという治療法が一般に開始されましたが、定期的に通院して注射が必要であることや注射部位の腫れや痛みなどの副作用もあることなどからなかなか広く普及するというまでには至りませんでした。
そこでアレルゲンを舌の下に入れて飲み込むというタイプの新しいスギ花粉症の治療薬が2014年10月に発売となり新聞やテレビなどで大きな話題となっています。

  • 非常に稀(1億回に1回程度)ではあるものの投与後重いアレルギー反応が起こることがある
  • 花粉が飛んでいない時期にも毎日服用が必要で年単位(3年以上)での継続が望ましい
  • 治療をした人全員に効果があるわけではなく2-3割の人には効果が乏しい
  • 少なくとも1ヶ月に1回の通院が必要(2015年10月までは2週間に1回)

など、治療前にご理解いただくべきことはあり、なかなか3年間も続かない(^_^;)と思われる方も多いかもしれませんが特に症状が重く、毎年ゆううつな数ヶ月を送っているという方は使っている抗アレルギー薬が少しでも減らせる可能性もあり、検討に値する治療法ではないでしょうか。

スギ花粉症の舌下免疫療法薬(シダトレン)は講習・登録を受けた医師のみが処方できるシステムになっており、私自身も講習を終了して開院後はシダトレンを多くの患者さんに使っていただければと考えています。